当社では昨今、気候変動が自社に及ぼす影響を開示するTCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)対応に基づくGHG排出量の算定支援や、脱炭素経営支援を行っています。そこで最近、カーボンニュートラルを目指す際の一つの手法として、カーボン・クレジットの利用に関するご質問が寄せられています。
まず、日本国内の枠組みに基づくカーボン・クレジットの種類について整理をすると、日本の法律や制度に基づき、国などの公的機関が認証・発行・管理している「コンプライアンス市場」のクレジットと、民間によって認証・発行される「ボランタリー市場」のクレジットの二つが存在しています。
次に、カーボン・クレジットを創出するプロジェクトの種類で区別すると、例えば省エネルギー由来の場合、新しい設備の導入による実際の排出量と、その設備を導入しなかった場合の仮想の予測排出量(ベースライン)との差分を環境価値として認証する「排出回避・削減(Avoidance Credits)型」のクレジットと、プロジェクトの実施によって物理的に大気中からCO2等を吸収固定するような手段を用いて創出された「炭素吸収・除去(Removal Credits)型」クレジットの大きく二つに分けられます。これらのクレジットは、工学的手段など技術をベースとしたものと、生態系を活用した自然由来のものとさらに細分化されます。
国が運営しているJ-クレジット制度の統計データを見てみると、2016年度以降は温対法における電気事業者の排出係数調整の利用が最多となっていますが、特に近年は脱炭素の取組の一環として、企業が独自主張する自主的なオフセットのニーズが拡大していることが分かります。
( J-クレジット制度 データ集(2023年1月) HPより )
グローバル企業の気候変動対策についての情報開示・評価の国際的イニシアティブであるCDP・SBTでは、他者から供給された電力、熱(Scope2)に対して、再エネ電力やバイオマスボイラーなどの再エネ熱由来のJ-クレジットを再エネ調達量として報告することができます。RE100では、再エネ電力由来のJ-クレジットのみ再エネ調達量として報告ができます(’21年8月以降基準引き上げあり)。
( J-クレジット制度 CDP・SBT・RE100での活用)
ここで注意しなければならないのが、現在GHG排出量を算定・報告する際の国際基準として位置づけられている温室効果ガスプロトコルイニシアチブ(GHGプロトコル)においては、原則としてサプライチェーン排出量の削減にカーボン・クレジットによるオフセットを認めていないという点です。クレジットを活用した排出量の削減・オフセットは、バリューチェーン外の投資的な削減活動として各社が自主的に主張できます。排出量を算定するスコープの概念はGHGプロトコルに基づくものであり、例えばカーボン・クレジットの活用によって「自社のスコープ1の削減・オフセットを行いました」という表現はできないので注意が必要です。
これらの自主的なオフセットの取組について、企業PRの観点などからニーズは拡大しているものの、現状では直接的な排出削減に用いることはできません。しかし、前述した「炭素吸収・除去」と「排出回避・削減」のクレジットを区別することで、クレジットを通じたバリューチェーン外での削減活動への貢献に関する評価を見直す議論が出始めています。
これまでJ-クレジット制度では、コスト面やクレジットの明確な活用目的、扱いやすさより省エネ・再エネ由来のいわゆる削減系クレジットの利活用が主流となっていましたが、現在、土地利用や炭素貯留、森林管理などによって創出された「炭素吸収・除去」クレジットについて、生態系保全や自然資本にもたらす多面的なベネフィットの観点からその重要性が増してきています。
今後、企業が中長期的に取り組むカーボンニュートラル実現のための一手段として、生物多様性や地域のレジリエンスへの貢献など、副次的効果も含めて期待が高まる「炭素吸収・除去」クレジットをどう戦略的に位置づけるのかが一つの論点となってくるでしょう。
次回以降のブログでは、「炭素吸収・除去」のカーボン・クレジットについて詳解してみたいと思います。
*このブログ記事は、超え環境ビジネスとグローカルリンクの共同執筆です。